東京地方裁判所 昭和45年(ワ)6151号 判決 1971年12月16日
理由
一、訴外株式会社美和が昭和四五年一月一〇日午前一〇時東京地方裁判所において破産宣告をうけ、原告が同日破産管財人に選任されたこと、右破産会社が原告主張の約束手形六通を振出したこと(ただし破産会社と訴外黒田美佐男との共同振出)および破産会社が不渡手形を出したことはいずれも当事者間に争いがない。
そして、《証拠》によれば、破産会社は、昭和四三年九月一〇日、不渡手形を出して支払停止をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二、原告は、破産会社が支払停止後被告に対し債務の弁済をなしたと主張するので、この点について検討するに、原告が主張する昭和四三年一〇月末の五〇万円および同年一一月二二日の一〇〇万円の各弁済行為は、いずれも破産宣告の日である昭和四五年一月一〇日よりも一年前の行為であるから、破産法八四条により、支払停止の事実を知つていたことを理由に否認することができないことは明らかであり、原告の右各弁済の否認(破産法七二条二号)は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
そこで、原告主張の昭和四四年三月一五日および同年四月三〇日の各弁済の点について検討するに、《証拠》によると、破産会社が昭和四三年九月に倒産した直後、破産会社に対する債権者であつた訴外日本商興が一時破産会社の事業を引受け、日本商興の名前で被告に時計バンドを納入したことがあつたが、その際、日本商興は被告との取引によつて生じる売掛債権について、被告の訴外黒田美佐男(破産会社と共同して本件手形を振出したものであり、破産会社の代表者であつた。)に対する債権三〇〇万円と相殺すること(昭和四三年一〇月から同四四年三月までの間毎月一五日に五〇万円宛)を承諾する旨の念書を差入れたこと、ところが、同年一一月訴外美工が設立され、同訴外会社は破産会社の機械設備等を四〇〇万円余りで買受け、以後同訴外会社が被告との取引を行なうようになつたが、美工は昭和四五年一月まで日本商興の名義を使用して被告と取引をしていたので、被告としては、取引の相手方は依然として日本商興であると思つていたこと、そして被告は美工との右取引によつて生じた買掛債務について、前記日本商興名義の念書に基づき相殺の処理を行ない、昭和四四年三月一五日に一〇〇万円、同年四月三〇日に五〇万円、それぞれ相殺の処理をしたこと、一方美工においては、破産会社から譲受けた前記設備機械等の買受代金の支払に代えて破産会社が被告に対して負担していた借入債務の返済をなすことを約束していたので、被告との取引によつて生じた売掛債権と右引受債務とを相殺することとし、被告のなした前記相殺処理と同一の日時、金額において相殺の処理をしていたことが認められ、《証拠》中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定事実によれは、破産会社の被告に対する右借入債務は訴外美工によつて引受けられ、訴外美工と被告との間に行なわれた取引によつて生じた同訴外会社の被告に対する売掛債権と相殺されたものであつて、破産会社が直接被告に対し具体的な弁済を行なつたと認めることはできない。
したがつて、破産者の行為に非ざる債務消滅行為を否認する本訴請求は理由がないものといわざるをえない。
三、以上により、原告の請求は理由がないから棄却
(裁判官 高橋正)